IC-7000、FT-857D、FT-817ND受信特性比較-1


IC-7000M、FT-857DM、FT-817NDの3機種について、受信特性の比較をやってみました。 (以下、”IC-7000″, “FT-857D”)

まずは、隣接周波数からの妨害による、受信アンプの飽和特性を比べて見ました。 といっても私は高価な測定器を持っているわけではないので、感覚による比較だけです。 しかし、単に漠然とした比較では意味がないので、数値化してみました。

この試験のきっかけは、先日FT-857Dを購入した際に、オプションのIFフィルターを購入するべきかどうかという点でした。 FT-857DはIC-7000のようにIF DSP機ではありません。 アナログ機であり、AF段にだけDSPがついています。

このFT-857のAF DSPだけでも、フィルター特性がある程度期待できるので、オプションのIFフィルターは不要という声もありますが、AF DSPだけの場合、選択度特性にはある程度期待は持てるものの、IF段以降のアンプの飽和や隣接周波数妨害に対しては無防備であると思ったため購入しましたが、フィルターの有無でどれくらい隣接周波数の影響が変化するのか調べてみたかった点です。

どのような試験をやったかというと、まず試験対象のリグを7MHzのダイポールアンテナに接続し、S=9くらいの信号を受信します。 その状態で、もう一台のリグ、固定局で使用しているIC-756PRO2を6mのアンテナに接続し、7MHzでは全く同調は取れていませんが、数W程度の信号を発信。 CWの短点の連続を送信します。 数Wで非同調のアンテナに無理やり乗せていますのでほとんど電波は出ませんが、極至近距離にあるため、試験対象リグでは近傍局からの隣接周波数妨害としてのシミュレーションとすることが出来るものです。 その状態で送信側の周波数を連続して変化させ、試験対象リグで受信している周波数に、信号受信が困難になるまで周波数をUp側・Down側の両方から近づけていき、どれくらい近傍までS=9信号の受信が可能なのかを調べてみました。 つまり感覚的な評価ではありますが周波数範囲という数値への転換を行うことで比較を行っています。 使用した周波数帯は7MHz、モードはCWにて調査。 何度か繰り返し、大体同じような結果になりますので、ある程度の信憑性はあるかと思います。

この試験を

  • ケース1: FT-857D, DSP DBF ON(240Hz), IF BPF OFF(セラミックフィルタのみ)
  • ケース2: FT-857D, DSP DBF OFF, IF BPF ON(300Hzコリンズメカニカルフィルター)
  • ケース3: FT-857D, DSP DBF ON(240Hz), IF BPF ON(300Hzコリンズメカニカルフィルター)
  • ケース4: IC-7000, DSP NR OFF, IF BPF ON(300Hz DSP IF フィルター)
  • ケース5: FT-817ND, IF BPF ON(500Hz コリンズメカニカルフィルター)

の5つのケースについて比較してみました。

また、上記の全ケースでDSP DNR(ノイズリダクション)はOFFとしています。

結果は、下のようになりました。

ケース条件妨害周波数範囲 (使用不可能な範囲)備考
1FT-857D
- DSP DBF ON(240Hz),
- IF BPF OFF(セラミックフィルタのみ)
- DSP DNR OFF
+2kHz/-900HzDSP DBF ONでの受信音に挿入損失を感じる
2FT-857D
- DSP DBF OFF
- IF BPF ON(300Hzコリンズメカニカルフィルター)
- DSP DNR OFF
+/-500Hz
3FT-857D
- DSP DBF ON(240Hz)
- IF BPF ON(300Hzコリンズメカニカルフィルター)
- DSP DNR OFF
+/-500HzDSP DBF ONでの受信音に挿入損失を感じる
4IC-7000
- IF BPF ON(300Hz DSP IF フィルター)
- DSP NR OFF
+/-1kHz

但しS=9+のノイズ +/-6kHz
5FT-817
- IF BPF ON(500Hzコリンズメカニカルフィルター)
- もともとDSP DNR無し
+/-800Hz

ケース1のAF DSP BPFのみの時と、ケース2のIF BPFのみの時との比較から、FT-857DについてはIF BPFが、予想通り、隣接信号に対して大きな効果があることの確認が取れました。 オプションのIF BPFは単に選択度特性改善のためではなく、隣接妨害からのプロテクトによるIF BPF以降の抑圧・飽和防止のほうに意味があると考えることができると思います。

それから、ケース3のようにIF BPFとAF DSP BPFの両方を使う場合ですが、AF DSPをONにすることにより受信レベルが下がり、挿入損失があることを明らかに感じます。 このため、受信音の明瞭度と隣接妨害の点でケース2が一番良いと感じました。

そして注目すべきはケース4のIC-7000です。 隣接周波数からの妨害に対しての利用不能範囲は明らかに違います。 こんな至近距離で出てくる妨害信号は可能性として低いとしても、IC-7000では信号は聞こえるものの、+/-6kHzで信号以外のノイズが、S=9+で非常に強力に聞こえるため、信号自体が非常に聞き取りにくくなります。 私の予想はまったく異なっていました。 IC-7000のIF DSPのほうが、切れがシャープで、はるかに隣接妨害に強い気がしていたのです。 IC-7000も、IF DSPとはいえ、トリプルコンバージョンで落とした最後のIF段でのDSP処理です。 いくら、IF DSP回路のフィルターの切れが良くとも、また数10Hzくらいの帯域にカットしても、それが前段アンプで飽和していたら、すでにノイズだらけで、抑圧を受けた信号を切り出しているに過ぎず、強大隣接信号への対策という意味では何の意味もありません。 IF DSPに入る前で飽和していなければ(通常の入力レベルでの運用であれば)IF DSPのフィルターの切れ、安定性、帯域の可変性は、もちろんすばらしいものになります。 今回使用した周波数は、7MHzですのでプリアンプはOFFにしています。 さらにATTを入れても全体ノイズは減るものの、隣接妨害からのノイズレベルの変化(信号とのSN比の変化)はありませんでした。 また、CW・SSB信号の回路では、各3段階のミキサー後段のクリスタルフィルターには15kHz帯域のものが使われているようです。 +/-6kHzでの高レベルなノイズはちょうどクリスタルフィルターの帯域幅に近く、おそらくIF段での飽和があることが予測できます。 各RF/IF段でのレベル配分もあると思いますが、やはりIF BPFでの絞り込みは、隣接信号による受信系の飽和・抑圧の結果に相当な影響があるようです。

ケース5のFT-817NDですが、これもIF BPFがよく効いており、隣接妨害には強い結果が出ています。 ただこちらに実装しているIF BPFは500Hz帯域ですので少しだけ、影響を受ける範囲が広くなっていますが、300Hzのものを使えばFT-857Dとほとんど同じ結果になったものと思われます。

次は機能、操作性の比較試験を行ってみました。  受信特性比較の-2はもう少しお待ちください。

つづく

 


JA1CTV
装備の道

14件のコメント

  • ja1sky

    面白い結果ですね
    小型の817が健闘していますね
    あと、気になった点が一つ
    >IC-756PRO2を6mのアンテナに接続
    隣にあるなら、ダミーでも十分かと思う
    まあ、人けのない6メーターだからいいか
    他のレポートもお願いします

  • 7K3DIW

    2000年前半は、HFのCWを中心に移動、コンテストを行っていました。会社のクラブメンバーのリグも含めて扱いました。
    コンテストは、正にリグの比較にはもってこいの場です。
    その経験からFT-857は、安価な割に良い出来と感じていました。

    しかし、もっと恐ろしいリグがありました。Elecraft社のK2(キット)でした。メーカ製のリグなんて比較にならない性能でした。
    コンテストでハイパワー局の間に250Hz隣に割って入っても、変なノイズが一切ないのです。弱い信号が聞こえるのです。

    それ以来、HF-CWでは、Elecraft機を愛用しています。
    湘南平でまたテストする機会があったら、KX-3またはK2(入院中)を持参します。
    いずれ、第二弾もお願いします。

  • JH0CJH

    SKYさん
    了解、今回は「6mアンテナ」という名前のダミーを使いました。「正真正銘のダミーロード」という名前のダミーでは、こんな結果が出ませんでしたので・・・

  • JH0CJH

    DIWさん
    K2ですか、聴いてみたいものですね。 そんなにすごいのかぁ・・・・
     

  • ja1sky

    ダミーの件
    正真正銘は本物だったのか
    我が家の簡易ダミーは漏れが出るのです、トホホ !

    K2 DX Pediに使用されているのも
    その性能なんですね、納得しました

  • JJ2DWL

    report拝見しました。
    IC-7000Mを所有しており、昨年伊豆でALLJA/6Dに使用しましたが、6mでまさにそんな感じで、レポートを拝見してまさに「あ~そうそう」と納得した次第です。(^^;)
    出来るだけIFの前段でのルーフィングフィルターが重要ということを痛感しておりました。
    6mは無いですがK2も一度手を出してみたいRIGです(^^;)
    レポートの続きも楽しみにしてます~

  • JH0CJH

    DWLさん
    いつもコンテストではありがとうございます。
    過大入力が特に顕著なコンテストではIC7000の弱さが出てしまいますね。

  • JH0CJH

    SKYさん
    はい、6mのアンテナ型のダミー(対7MHz)です・・・・・笑

  • JN3ONX

    いつも海外・国内で交信ありがとうございます。
     FT-817NDと,ローカルの所にあるK3で、同じHFの
    CWの信号を聞きましたが、それはK3の方が上でした。
     「それでは。」とK2も持っておられるので聞いたところ
    やっぱり817NDの負け。しかし、ただ817NDの方が
    「粉っぽい」と言う感じだけで聞こえることは聞こえます。
     今度FT857Dを中古で買い、FT-991もIC-706MK2G
    もあるので、こちらも何かやってみようと思います。

    • JH0CJH

      ONXさん
      コメントありがとうございました。
      コメントバックをしていなかったようです。
      聞き比べはみなさんの参考になります。
      よろしくお願いします。

  • JH6EXF

    偶然見させていただきました ICOMのリグはどれもトップアンプが飽和しやすいようです
    私の環境はテストされたのと同じような環境です 近くの局が出てくるとICOMは使い物になりません
    今はSDR機です これはそんことなありませんよく聞こえます

    • JH0CJH

      EXFさん
      コメントありがとうございました。 初段アンプの飽和は後からはどうにもできませんので大切ですね。 SDRはICOM製でしょうか? RF段からのSDR、DSPはとても有用だと思います。私もIC-7610が欲しいと思っていましたが現存リグの修理をしてしまったのでどんどん遠のいています。

      この記事は結構自信作でもっと皆さんに見ていただきたいところですが、他の記事の方が人気記事になってしまいます。 なぜかは判りませんが、他にも掘り出し物があるかもしれませんので探してみてください。

  • JA1CTB

    IC-7000, K2両方使ってました

    IC-7000はコンテスト局ではどこかのバンドが送信しただけで受信がダメになるので使えなかったです。トリプルスーパーの最後の段が混変調起こしたあとADCかけてDSPでフィルタリングと復調とAGCの検出なので適正レベルに戻せないのでしょう。ルーフィングも弱いのでしょう。一人で使うには便利で面白いリグでした。

    K2は素晴らしいシングルスーパーの特性を発揮しコンテスト局でCWでもSSBでもパイルさばくとき音が溶けず、これ以上に分離しやすい受信機はなかったです。少しゲイン少なめなのか、全般的に静かで局だけ浮かび上がってくるように感じる澄んだ音で疲れにくいです。

  • JA1CTV

    CTBさん
    Elecraftのリグは静かですね。 この点国産のリグはどれもノイズが多く、これは私も各社受信ゲインを上げすぎているような気がしています。

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