
IC-7000、FT-857D機能操作性比較
受信飽和特性の比較では、IC-7000に比べて、FT-857Dの方が勝っていることが判りました。 私の使い方の中で、結構重要な位置を占める、コンテストでの使用に際しては、特にこの受信飽和特性が重視されます。 それではコンテストや移動運用での使用にはFT-857DがIC-7000を完全に凌駕しているのでしょうか?
次は、受信感度の比較の前に、まずIC-7000とFT-857Dの機能と操作性について比較してみました。 私の運用は、CWとSSBでの運用が大半で、FMやRTTY、リピーターなどでの運用はほとんど無し、という使い方の範囲内での比較です。
結論から言いますが、これは、私の使い方の中では完全にIC-7000のほうが勝っていると思います。 FT-857Dは受信飽和特性は上ですが、操作性が悪い。 これは本体が小さくてボタンを共用しているから操作性が悪いというだけではないように思います。 ボタン数はIC-7000のほうが確かに多いが、それ以上にIC-7000では、その機能の使われ方が十分検討されている感じがします。
これに対して、FT-857Dはどう考えても、その機能の使われ方を知っている人が設計したものではないという気がする部分すらあります。 このため無駄な単独ボタンがあったり、良く使うボタンがファンクションボタンで探さないと出てこないようなものがあります。 FT-857Dは、基本機能がIC-7000よりも上であるだけに残念、改善の余地は多いと思います。
機能比較
機能 | IC-7000 | FT-857D | 自分の使い方とのマッチング |
---|---|---|---|
LCD表示 | ◎ 運用に際して必要な設定内容や状況が視認性も良く表示されている。 | △ 表示エリアも小さく仕方ないところがある。 | カラーLCDでの表示はIC-7000(以下I)のほうがダントツに良し、FT-857D(以下F)では相当見劣りする。 これは価格差もあり仕方ないところではあるが。 |
メーター表示 | ◎ Sメーター、送信出力、ALC、ボイスコンプレッション、SWRを横方向のバー表示 全部一緒に表示することも可能 リグの温度表示もある | △ 受信時はSメーター、送信時は送信出力、変調、ALC、SWRのどれか1つ選択 左横に縦方向の表示、Sメータは1-9++の数値表示もある。 | Fでも実用上は必要十分である |
ボイスメモリー | ◎ 有、4つ | X 無 | ボイスメモリーはコンテストでは有利、というよりも不可欠。 |
CWメモリーキー | ◎ 有、4つ | △ CWビーコン機能で代用、1つ、マニュアルには3つあるということだがどうやって設定するのかいまだわからず設定方法を探しています | Fの使いにくさは明らか、操作性比較を参照。両者とも再生はファンクションキーであり、該当するメニューを常時表示させておく必要がある。個別のボタンがあると良い。 |
DSP | ◎ IF DSP 過大入力で前段アンプで飽和すると当然意味なし。 | △ AF DSP 利きは良くない ◎ AF DSP+IF BPFの組み合わせが可能なのは良い | DSP自体の機能に大きな差があるが、FのIF BPFとの組み合わせは良い、受信性能比較-1参照。 |
デュアルパスバンドフィルター | ◎ IFシフト、デュアルパスバンドフィルター有り | 〇 IFシフトはあるが、デュアルパスバンドフィルターは無い | 機能はIが勝っているが、飽和特性でFが勝っているので特に大きな問題ではない |
フロントパネルセパレーション | 〇 特殊ケーブル | 〇 試してないが普通のRJ14ケーブル(6芯電話線)で可能と思う しかし装着、取り外しはやりにくい | Iはセパレートにしないときはケーブル不要。 Fはセパレートにしないときでも短いケーブルが必要(付属している) |
消費電力 | X 受信時でも1.2A程度の消費電力 | ◎ 受信時660mAの消費電力 | |
対電圧降下 | X 受信では9.5Vになったときに無線機の電源が落ちる。 送信では10.0Vになったときに無線機の電源が落ちる。 周波数のずれは観測されず、落ちる直前まで同じ周波数。 | ◎ 受信は7.5Vになったときに無線機の電源が落ちる。 電源をOnに出来るのは9.2V以上 送信では電圧が下がるとともに送信出力は減るが7.5Vまで無線機の電源が落ちない。 周波数のずれは観測されず、落ちる直前まで同じ周波数。 | |
放熱 | X FANはついているもののとても熱くなる。 | ◎ ほとんど熱くならない。 | 消費電力にも関係しているものと思うが、Iは心配になるほど熱くなる。 |
操作性比較
操作性 | IC-7000 | FT-857D | 自分の使い方とのマッチング |
---|---|---|---|
メインダイヤル | 〇 約40mm径 | 〇 約38mm径 | 特に差は無い、IC-7000(以下I)はダイヤルの重さを4段階調整、FT-857D(以下F)は調整なし。 |
機能呼び出し | 〇 メニューボタンで呼び出し、長押しでグループの切り替え、一画面4つ | X ファンクションボタン>セレクトダイヤルで呼び出し、一画面3つ | Fはファンクションボタンを押してからでないと、セレクトダイヤルで周波数が変わってしまう。ファンクションの切り替えなのか周波数の変更なのかの判断が小さい表示のみで、しかもファンクション設定にはタイムアウトがあるので、知らないうちに周波数を変えてしまったりする。 これが個人的には最大の難点。 |
詳細設定 | △ メインの設定はAFボリュームの短押しで呼び出す。 その後ファンクションキーにあるグループごとに設定。 しかし一部のCW関連、Voice関連の設定はこの場所にはなく、選んでいるモードにより別の場所でメニューを選ぶようになっており、設定箇所がバラバラの印象を受ける。 | 〇 ファンクションボタン長押しで設定画面を呼び出し、セレクトダイヤルで項目選定、メインダイヤルで設定値変更。すべての設定はこの場所で一括設定。 | Fは一箇所に集まっているので判りやすい。 |
プリアンプON/OFF | 〇 単独On/Offボタン有り | △ ファンクションボタン>セレクトダイヤルでIPOのOn/Off IPO OnはプリアンプOffのこと | プリアンプは周波数ごとに設定しっぱなしであり、特に大きな差ではない |
アッテネーターON/OFF | 〇 単独On/Offボタン有り、プリアンプボタンの長押し | X ファンクションボタン>セレクトダイヤルで選択 | ATTのOn/OffはプリアンプOn/Offよりも頻度は高く重要、この点でFは設定に時間が掛かりすぎてしまう。 |
バンド切り替え | 〇 Up, Downそれぞれ単独ボタン | 〇 Up, Downそれぞれ単独ボタン | 差は無いがFはメインダイヤル回りのボタンなので、どちらがUpでどちらがDownか見えにくい。 |
Mode切り替え | 〇 単方向ローテーション、単独1ボタン | 〇 両方向ローテーション、単独2ボタン | 特に大きな差ではない、というよりもスペースが少ない中でFは両方向単独にボタンを持つ必要があったのか? どちらの方向に進んだら逆方向より早くそのモードにたどり着くなどと覚えている人がいるのか?別の機能をこの単独ボタンの1つに割り当てるべきだったと思う。単独ボタンがもったいない。 |
Tunerボタン | ◎ 単独ボタン有 Callボタンの長押し | X ファンクションボタン>セレクトダイヤルで呼び出してからボタン押下 | Iは単独ボタンがあるが、Fは外付けATUを使うHF移動ではファンクションボタンを呼び出す必要があり面倒、これは自分にとっては大きな差。 |
Call/Homeボタン | 〇 有 | 〇 有 | FMメインチャンネルの呼び出しボタン、両方とも個別の単独ボタンを準備しているが、個人的にはFMではあまりQRVしないので不要、せっかくの単独ボタンがもったいない。何かに変えたいところ。 |
RIT/CLAR | 〇 左下外側のダイヤルで調整 X 数値は常には表示無 〇 ダイヤルを1ステップ回すとどれだけ掛かっているか表示 〇 一発クリアあり | 〇 セレクトダイヤルで調整 △ Up or Downのみ表示 X 数値は不明 X 一発クリア無(下のIFシフト参照) | Iは回した瞬間RIT値がポップアップ、しばらくすると消える。 Fは上か下かだけが表示されるだけで、どれだけRITが掛かっているか常に不明、またRIT調整分が直接メイン周波数表示を変える。CLARって⊿Fではないと思うが? |
IFシフト・デュアルパスバンドフィルター | 〇 PBTダイヤルを一押し、LED点灯している状態で、外側、内側のダイヤルで調整する 操作もLCD上の表示も直感的で判りやすい | △ CLARボタン長押しで、セレクトダイヤルでIFシフト | Iはひとつのボタンダイヤルで完結、Fは別ボタンとセレクトダイヤルの2箇所で設定 さらにFはCLARでRIT設定中にIFシフトをしようとするとRITが一発でクリアされる。 CLARとIFシフトが共存できない設計。 不思議? |
ノイズブランカー | 〇 単独ボタン、長押しでレベル調整 | △ ファンクションボタン>セレクトダイヤルで呼び出してからボタン押下、長押しでレベル調整 | 常時ONにしているので大きな差ではない |
ノイズリダクション | 〇 単独ボタン、長押しでレベル調整 | 〇 単独ボタンで呼び出し、機能スイッチ押下、長押しでレベル調整 | Iは1アクション、Fは2アクションだがほとんど使わないので大きな差ではない |
ノッチフィルター | ◎ マニュアル、オートとも単独個別ボタン | X 単独ボタンで呼び出し、その後DNFボタン押下。 利きは悪い。 | Iはマニュアルノッチは2ポイント指定、Wide, Mid, Narrowも選べるが、複雑すぎて使ったことなし |
ダイヤル早送り | 〇 TS単独ボタン | 〇 電源スイッチボタンを短押し | 同等 |
ダイヤルロック | 〇 SPCHボタン長押し | 〇 単独ボタン | Fはメインダイヤル横なので慣れないと横を見ないとどのボタンかわからない |
VFO/MEM切り替え | X メニューで呼び出し、ファンクションボタン押下 | 〇 単独ボタン | Fは単独ボタンで良いがメインダイヤル横なので慣れないとどのボタンかわからない 私はあまり使わないので関係ない |
CWメモリーキー内容設定 | ◎ファンクションボタンで選択、エディットは英字、記号、数字を選んでメインダイヤルで文字選択 | X CW Beacon機能の内容書き換え、CW Beaconは一段深いEXT機能グループ、英字、記号、数字のグループ分け無し。 なんと文字の途中挿入不可。 | EditのしやすさはIがはるかに良し、特に文字挿入がFは出来ないので全部入れなおしになる。 これは自分にとって大きな差。 本当に出来ないのだろうか?いまだにやり方を探している。 |
電源電圧表示 | △ 無 | 〇 有、常時表示 | 表示は移動運用では少しだけ便利、それほど大きな差ではない |
時計表示 | 〇 JST, UTC等使い分けられる、常時表示 | △ 無 | あまり使わないが海外で運用するときやDXとやるときはちょっとだけ便利 |
スプリット運用 | ◎ メニューで呼び出し、長押しでクイックスプリット設定可、TX周波数のモニターボタンあり、これを押している間メインダイヤルでTX周波数の変更が可能 | △ ファンクションボタン>セレクトダイヤルで呼び出し設定、クイックスプリットはSPLとは別にあり、これを長押し、TX周波数のモニターボタン無し。 VFO切り替えでやるしかない | FはクイックスプリットはSPLの長押しにできなかったものか IはTX周波数のモニターが出来る点、さらにモニターしながら可変できる点で便利 Fはモニター機能すらない。 |
CW Keyスピード | X AFボリュームダイヤルを短押しでクイックメニューから選択して速度変更 | △ ファンクションボタン長押しで設定画面からも出来るが時間が掛かる、このためファンクションボタン>セレクトダイヤルでKYR ON/OFFボタン長押しで速度変更可能(これはマニュアルに記述のない裏技?) | 下の個別設定参照。 |
個別設定 | X 無 | 〇 セレクトダイヤル長押しでいくつかのメニューから自分の好みで機能を割り当てられる、私はCW Keyスピードを割り当てたが変更するときにLCDにスピード表示が出ない なぜ? | Fについて設定内容の表示が出るようにして欲しかった。 |
送信中の設定変更 | 〇 送信中でもフィルター帯域や送信電力など大半の設定が可能 | X 送信中は不可能 | CWでオートCQ中などにパラメータを設定したくなることは多い。 |
マイクの取り付け、取り外し | 〇 LANケーブルと同じRJ45ジャックで取り付け、取り外し簡単 | △ ジャックはRJ45で同じだがフロントパネルをはずさないと取り付け、取り外し不可能 | Fのマイクコネクタはロックピンが壊れにくい構造で良し、Iは良くある壊れたLANケーブルのコネクタのようにロック部分が壊れやすい |
期待している機能や、操作性は個人の使い方に左右されるところが大きいので、単純に良い悪いの比較はできませんが、◎を3点、〇を2点、△を1点、Xを0点とすると、IC-7000は70点、FT-857Dは52点という結果になりました。
次は感度の比較を報告します。 つづく
興味深く拝見しました。
FT-857Dは持っていないのでわかりませんが、
IC-7000は小さな筐体に無理に詰め込んだ影響なのか、やっぱり発熱が大きなネックでしょうね。
430メガまで出られるのは大きな魅了ですが、感度はいまいちで、残念。
操作性はメニューが多く覚えるのが大変です。
CWスピードの可変はすぐに出来ると良いのですが、もっと簡単なメニューにして欲しかった。
続編を楽しみにしています。
TCVさん
風邪の具合はHW?
FT857を入手してからIC7000はまだ操作が楽なほうであることがわかりました・・・・笑
感度の比較試験いま執筆中です・・・・
15年車に載せていたIC-706mk2が不調になってきたので、代替用のFT-857DMの検討に一連の記事が大変役に立ち感謝しております。 操作性の悪さはFT-817で慣らされてきたので目をつぶって選定しました。
いじっているとファームや設計の不具合が目に余りますが安いので・・
FT-857のバンドデータなど小ネタを幾つか私ホームページに上げましたので、よろしければお尋ねください。
水上さん
いつもありがとうございます。
FT-857DのFWは確かにいろいろ変なところもありますね。
ただこのリグ、隣接信号に対しての性能がすごく良いです。
また回り込みに強くその点はとても心強い良いリグです。
移動先でリグが燃えていたら、それこそ泣くに泣けません。
FT857を持っています。アイコムは使ったことがありません。興味深く記事を拝見しました。
どうも八重洲のリグは使い勝手という部分でいまいち練られていないような気がします。他にFT450Dと、FT991Aを持っていますが、それぞれ残念なところが散見されます。
857の近接信号に対する特性は素晴らしい、と自分も思っていました。同じ八重洲でも450よりは完全に上、ひょっとすると991よりも強いかも。メカフィルを積む、音も聴き疲れしにくいし、メカニカルフィルタを積む、という条件ですが、今出来のリグと比べても、充分に一級の性能を持っていると思います。
受信性能の他の強みは、大きさ的に徒歩で移動運用でき、素で出力50wを叩き出せ、1.9から430までカバーするのは、857ぐらいでしょう。
メカフィル共々、ディスコンが惜しまれます。
蛇足です。月に2~3回、平日に1~3時間ほど、7MHz CWをメインに移動運用しています。土曜日夕方が多いです。よろしくお願いいたします。
toshiさん
コメントありがとうございました。FT-857は良いリグですね。私はちょっと使う機会が少なくなったので手放してしまいましたが、あの混変調対応力は本当に良かったです。確かに単独でハイパワーの出る全バンドカバーリグはもうなくなってしまいましたね。857関連の記事もだいぶありますのでご参考になると幸いです。