1kWへの道-9


総務省から仮免許である変更許可が下りました。しかし、ここからが本番です。

この「1kWへの道」で一番の「大きな壁」・・・それは全周波数と信号形式(モード)で申請している最大電力で試験電波を発射し、ご近所の皆様に電波障害がないことを確認していただくことです。この確認試験は1kW局の免許には避けては通れない道です。

「1kWへの道」が険しい登山道とすれば、この試験電波発射での近所の皆様の確認は登山道に立ちはだかる急峻な岩壁のようなものです。

本当に1kWという大電力を出して近所の皆様の家のTVやラジオに障害が出ないのか?心配で心が折れそうになります。1kWは地方のラジオ中継局くらいの送信出力です。おそらくこれは誰もが同じことを感じることと思います。これだけは自分で事前に準備しておくことができません。ただ十分に自宅で電波障害が出ないことを確認して対策を取っておくことはできます。このため、あらゆるところにフェライトコアを入れたり、コモンモードフィルター、ローパスフィルターを入れたことは先日の投稿の通りです。そしてもう一つ、事前準備で欠かせないのはこのような技術的なところだけではなく、「近所づきあい」というソフト的な側面もとても大きな要素になります。

とにかく、「近所の皆様に、絶対にご迷惑をかけない」という自分自身の決意、そして自分自身の安心のために、この大きな壁はどうしても乗り越えないといけません。試験電波発射日時は日曜日の昼間と翌月曜日夜の2回試験を行うことにしました。このため事前に金曜夜と土曜日に近所の方、合計9軒に試験電波を発射することの説明と電波障害の有無を確認していただきたいことのお願いをして回りました。幸い近所の皆様には快く受け入れていただきました。

せっかく近所の方に調査のご協力をいただくのですから、何かに失敗して調査をやり直しするなどということはできません。初日は、段取り確認でだいぶ緊張しました。朝から送出する試験信号の録音、アンテナアナライザーを使ってのアンテナ特性の再確認、そして運用する周波数も仮に決めておいて、アンテナのチューニングも取り直しました。さらに1kWをフルに入れても装置・アンテナに問題がないことを確認しておき、12時~14時の試験に備えました。何しろギボシ端子で切り替えるアンテナですので、段取り、手順をしっかり決めておかないといけません。それぞれの周波数とモードで、きっちりと1分単位のスケジュールを立てて順番どおりに進める計画を立てました。

日曜日の第1回目の試験電波発射は昼12時の時報でスタート。

自分でもTVやラジオをモニターしながら試験電波を発射しました。

問題なく進みましたが・・・・50MHzでTVの2chと3chにのみ、ブロックノイズが発生。これには本当に困りました。特定のTVチャンネルだけに障害が発生していたので、いままで気が付かなかったものです。100W程度の出力でも出てしまいます。すぐに46年の無線人生の持てる知識と経験をフル動員させ原因を考えました。

まず特定のチャンネルだけの障害なので高調波やある周波数での異常共振などが考えられます。高調波に対してはしっかりとローパスフィルターを入れているわけですし・・・・となると異常共振・・・・もしや・・・ ここで10MHzと50MHzは同じ給電でマルチエレメントになっていることに気がつきました。

10MHzのダイポールには50MHzも乗ることは判っていましたが、50MHzのダイポールと同時に、同時給電のマルチエレメントになっている10MHzのダイポールにも50MHzの信号が乗っているため何らかの共振or干渉が発生しているのではないかと思ったのです。

そこで10MHzのダイポールを滑車で下ろして、このエレメントのSWRを故意に悪化させ、再度試験電波を発射してみたところ、ビンゴ! TVの2chと3chの障害はきれいに無くなりました。良かった!

同時給電の複数エレメントで周波数が奇数倍になっていると同じ問題が発生する可能性があります。これを避けるには奇数倍関係にあるダイポールを同時給電の別エレメントにしないことです。つまり10MHzのダイポールのエレメントにギボシ端子をいれて50MHzに使用すると同時給電の別エレメントの状況は避けられます。7MHzと21MHzのエレメントも別にすると同じ事が起きる可能性があります。

トラブルには直面しましたが、すぐに解決でき、段取り良く進んだため試験電波発射試験は予定した2時間もかからず、1.9~50MHzの11バンドでCWとSSBの試験電波の送出を完了。変更検査対象ではないのですが、余った時間は144MHz、430MHz、1200MHzでも自分の安心のため試験電波を送信してみました。1回目はなんとか手順通り進めることができ、成功したといえるでしょう。

試験電波発射2日目は平日、月曜日夜の時間帯、しかもゴールデンタイム19時~21時です。こんな時間をあえて選んだのは自分の安心のための挑戦、そして本当に大丈夫なのだろうかという自分自身の折れそうな心への挑戦です。前日の50MHzの問題は解決していますので、段取り良く進めるだけなのですが、夜で真っ暗なので屋外作業は注意が必要。寒いので毛糸の帽子の上に登山用ヘッドライトを付けて作業しました。

何とか順調に進みましたが3.8MHzのCW/SSBバンドと3.5MHzのSSBバンドでSWRが落ちずアンテナのチューニングが取れません。

前日はうまくいったのですが・・・、もともと多少低い周波数に合っていたことは認識していたので、すぐにエレメントを折り返す長さを調節したところ、SWRは大きく改善されました。一時はどうなるかと思いましたが、試験電波の発射時間内にはすべての周波数で試験電波発射を行うことができました。結局1時間半ほどで1.9MHz~50MHzまで完了したので、2日目も余った時間はまた144~1200MHzの試験電波を出してみました。

ということで試験電波の発射試験は完了。

そして今日、近所の皆様から調査票を回収させていただき、9軒のお宅で全TVチャンネル、ラジオ、電話など、全部問題ないことが確認できました。

とてつもなく大きな岩壁を乗り越えた!

いま、まさにそんな気持ちです。

これでいよいよ総務省の落成検査を受けることになります。

1kWへの道-10につづく


JA1CTV
1kWへの道

2件のコメント

  • JN1VFF

    今までの連載を拝読して、やはり、覚悟を決めて、腹を据えてかからなければダメだいうことが良く分かりました。
    でも、一つ一つ積み上げて解決していく醍醐味と達成感は、ハンパないですね。
    また、KAWAさんの文章がうまいから、とても、臨場感にあふれ、まるで、自分も一緒にやってる錯覚に陥り、手に汗握りますよ。
    我が家の場合、直近を走っている新幹線からのノイズ対策等も考えなければ、QROだけしてもバランスが取れませんね。
    今後も、楽しみにしています。

    • JH0CJH

      こばさん、
      コメントありがとうございます。ようやくここまで来れました。あとは落成検査を残すのみです。何かお手伝いできることあればいつでも連絡ください。喜んで協力させていただきます。

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